WISC-Ⅴ知能検査の概要・結果・解釈の仕方に関して解説
皆さん、こんにちは。
今回は、2022年2月より発刊された児童版のウェクスラー式知能検査であるWISC-Ⅴについて、WISC-Ⅳとの変更点であったり、結果の解釈の仕方などを含めて、さいたま市緑区のJR武蔵野線東浦和駅徒歩1分カウンセリングを行う臨床心理士・公認心理師の筆者がご紹介したいと思います。
お子さんにWISC検査を取ってもらったけど結果がよくわからなかったという方、これからお子さんにWISC検査を取ってみようか悩んでいる方、自分の児童生徒のWISCの結果の読み方や支援について考えたいという先生方や、これから第5版のWISCを取ろうとしている専門家の方に参考にしてもらえたらと思います。また、専門家向けにWISC-Ⅴ知能検査の研修もございますのでそちらも検討下さい。
WISC知能検査の概要について
WISC知能検査とは、正式にはウェクスラー式の児童用の知能検査のことです。WISCーⅣ知能検査では、全体の知能(FSIQ)と4つの知能(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)のいわゆるIQ値がわかり、WISCーⅤ知能検査では、全体の知能(FSIQ)と5つの知能(言語理解・視空間・流動性推理・ワーキングメモリー・処理速度)のIQ値がわかる検査になっています。
現在、日本では第4版のWISC-Ⅳ知能検査が2010年より実施されていますが、2022年2月に第5版のWISC-Ⅴ知能検査が発刊されており、だんだんと第4版のWISC-Ⅳ知能検査から第5版のWISC-Ⅴ知能検査へ変わっていっている現状にあります。バージョンの古い知能検査を使うと、一般的にやや高い結果が出ると言われており、なるべく最新のバージョンを受検してもらう方が望ましいといわれています。
(対象年齢)
5歳0か月 ~ 16歳11か月
5歳0か月から実施できるものですが、ひらがなの習得の上で行う課題もあるため、学齢期以降の実施が望ましいとされています。対象年齢の下限がぎりぎりの場合、WPPSI(対象年齢)2歳6か月~7歳3か月を実施する場合もあります。また、小学校へ上げる前は慣例として、関東圏では田中ビネー知能検査Ⅴや関西圏では新版K式発達検査を実施する場合が多い状況にあります。知的に発達の遅れがあるお子さんに関して、実施するような場合は、8歳以上の方が望ましいと言われています。
(所要時間)
60分 ~ 90分
公式の実施時間は上記のようになります。平均としては70分~80分前後が多いように感じます。年齢が高くなるほど、課題数が多くなるので時間がかかるような作りになっており、また、熟考するタイプの子ほど検査時間が長くなる作りになっています。過去に実施した方の中では最大120分程かかる方もいたので、最大その程度の時間が必要だということを想定しておけるといいかもしれません。また、実施機関によっては、補助検査を実施するかどうかで検査時間が左右する場合があります。
WISCーⅣ検査でわかる項目
WISCーⅣ知能検査には基本検査が10、補助検査が5あり、全15の検査から成り立ちます。15の検査それぞれが、4つの知能(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)にまとめられており、以下のようになっています。
基本検査 | 補助検査 | |
言語理解 | 類似・単語・理解 | 知識・語の推理 |
知覚推理 | 積木模様・絵の概念・行列推理 | 絵の完成 |
ワーキングメモリー | 数唱・語音数列 | 算数 |
処理速度 | 符号・記号探し | 絵の抹消 |
(言語理解) 言葉による理解や把握能力に関する力=VCI
その人の持っている語彙力や言葉に関する理解力、推理力、一般的な知識などがわかる指標になっています。
(知覚推理) 目で見たものを理解や把握能力に関する力=PRI
その人の持っている視覚的な情報処理能力、視覚的イメージ力、空間認知の力などがわかる指標になっています。
(ワーキングメモリー) 聴覚的な記憶力や注意集中に関する力=WMI
その人の持っている聴覚的な情報記憶能力、注意集中力、プランニング力、他者とのコミュニケーションの際の聞き取り能力などに関わる指標になっています。
(処理速度) 手先の器用さや作業スピードの速さに関する力=PSI
その人の持っている視覚情報を素早く正確に判断して、性格に書く力、筆記機力、視覚的な短期記憶力、動機づけや注意の持続力がわかる指標になっています。
WISCーⅤ検査でわかる項目
WISCーⅣ知能検査では、4つの知能(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)にまとめられていたものが、5つの知能(言語理解・視空間・流動性推理・ワーキングメモリー・処理速度)に変更になっています。また、補助指標としても以下の表の5つがわかるようになりました。
主要指標について
(言語理解) 言葉による理解や把握能力に関する力=VCI
その人の持っている語彙力や言葉に関する理解力、推理力、一般的な知識などがわかる指標になっています。
(視空間) 視覚からインプットした情報を空間的に処理する力=VSI
(流動性推理)視覚情報から推理や推論を行う力=FRI
(ワーキングメモリー) 聴覚的な部分と視覚的な部分の短期記憶に関する力=WMI
その人の持っている聴覚的と視覚的な情報記憶能力、注意集中力、プランニング力、他者とのコミュニケーションの際の聞き取り能力などに関わる指標になっています。
※第4版のワーキングメモリーと同じ名称ではあるものの測定している部分が異なるため、単純比較はできない。
(処理速度) 手先の器用さや作業スピードの速さに関する力=PSI
その人の持っている視覚情報を素早く正確に判断して、性格に書く力、筆記機力、視覚的な短期記憶力、動機づけや注意の持続力がわかる指標になっています。
補助指標について
(量的推理) 算数や数学の応用問題で困難を示す場合=QRI
その人の持っている算数や数学での文章題などを解く際に必要な文章題を読み解く力と、論理的に考えていく力がわかる指標になっています。
(聴覚ワーキングメモリー) 聴覚的な短期記憶や注意集中に関する力=AWMI
その人の持っている聴覚的な情報記憶能力、注意集中力、プランニング力、他者とのコミュニケーションの際の聞き取り能力などに関わる指標になっています。第4版でのワーキングメモリーと同じ部分を測っている。
(非言語性能力指標) 言葉にハンディがある受検者に言語以外の部分に関する力=NVI
その人の持っている言語以外の能力を測定するものになります。日本語がネイティブではない場合や選択性緘黙の場合にFSIQに代わる指標として算出される場合がある。
(一般知的能力指標) 能力の主要な部分である言語理解、視空間、流動性推理を合わせた力=GAI
その人の持っている言語理解、視空間、流動性推理の3つの力を合わせた力を表す。発達障害の方がワーキングメモリーと処理速度が低くなるため、FSIQに代わる数値として算出される場合がある。
(認知熟達指標) ワーキングメモリーと処理速度を合わせた力=CPI
その人の持っているワーキングメモリーと処理速度の2つの力を合わせた力を表し、一般知的能力指標との比較のために算出される場合がある。
WISC検査の結果について
WISC検査は、全検査IQと先ほどの4つの言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度のIQがそれぞれ、100を平均として数値化されて現れてきます。
合成得点(IQ) | 分類 | 全体での割合 |
130以上 | 非常に高い | 2.5% |
120~129 | 高い | 7.2% |
110~119 | 平均の上 | 16.6% |
90~109 | 平均 | 49.5% |
80~89 | 平均の下 | 15.6% |
70~79 | 低い(境界域) | 6.5% |
69以下 | 非常に低い | 2.1% |
(例)
全検査=89 言語理解=103 知覚推理=80 ワーキングメモリー=106 処理速度=76
このような形で、全検査IQと4つの指標ごとのIQが分かるような形で検査結果として出てきます。結果から、4つの点数のバラつきが大きいと、その人の頭の中で能力にそれだけ差があり、何かうまくいかない原因になるかもしれません。また、すべての数値が低いという場合には、知的障害などの可能性が考えられたりします。
WISC検査の結果の解釈
その人ごとの全検査IQと4つの指標ごとのIQ、またその人の生育歴、性格特性、行動観察、現在の環境など総合して、その人の特徴を解釈していきます。つまり、検査のみでわかることは実は限られており、検査のみを受けたからと言ってすべてがわかるわけではありません。
この辺りは勘違いされている方が多く、検査を取れば発達障害や何か疾患の有無がすぐに分かったり、その人の生きづらさの根本的原因がすべてわかるわけではないということです。あまり心理学を勉強していない人(医師や学校の先生など)ほど、知能検査を取ればわかると考える人も居ますが、必ずしもそうでない場合も多くあります。
結果解釈の例1
全検査=89 言語理解=103 知覚推理=80 ワーキングメモリー=106 処理速度=76
・「見て考える」よりも「聞いて考える」方が強いため、視覚情報は簡単なものにして、音声による情報提示も大切である。
・見通しを持ちやすくするために、言葉で予め見通しを伝えることが必要である。
・筆記量を減らしたり、時間を多くとるという配慮があると良いとされている。
結果解釈の例2
全検査=106 言語理解=91 知覚推理=120 ワーキングメモリー=91 処理速度=115
・語彙力や知識を増やすために理解に合わせた個別での指導が必要である。
・言葉による指示だけではなく、絵や図などを用いた指示をや説明を活用できると良い。
・非言語的な力を発揮できるような機会を本人に与えて自信を付けてもらうことが大切である。
結果解釈の例3
全検査=99 言語理解=111 知覚推理=109 ワーキングメモリー=85 処理速度=83
・言語の理解や推理力は高いが、記憶力や作業はゆっくりなため力を発揮できない可能性があるので、課題量の調整や時間の調整が必要である。
・話をすることよりも書くことが苦手であるために、回答方法の工夫が必要かもしれません。
・指示や説明はわかりやすいものを繰り返す必要がある。
結果解釈の例4
全検査=85 言語理解=80 知覚推理=78 ワーキングメモリー=100 処理速度=102
・初めての活動は、活動の流れや目標を明示して見通しを持ちやすくする。
・個別的な指導で知識などの本人の能力の底上げを行う。
・低学年では機械的な暗記で顕在化しにくいが、高学年になり思考や推論が必要な場面でつまずき、自信を失いやすいために対応が必要である。
これらはこのような形のあくまでも一般的な見方なので、実際には個々人に応じた情報収集を元にした解釈が重要です。
WISCが実施できる場所
WISC検査が実施できる場所としては、病院やクリニックなどの医療機関、教育相談センターや発達相談窓口などの教育機関、大学附属の一般に開かれた相談機関、個人でやっているカウンセリング機関など実施できるところがあります。
市区町村など公立のところでは子ども向けに無料で実施できるところもありますが、その多くは有料で数千円程度から数万円程度かかるところもあります。場所によっては、IQ値だけを知らせて詳しい説明がないという場合もあります。詳しい説明まで記述してくれる場所で検査を受けられると良いでしょう。
また、検査を実施してから手元に検査の結果が届くまでに多くの場合2週間から1か月程度の期間が必要であり、それだけ分析や結果の記述にも時間がかかるものです。
WISC検査のまとめ
今回は、さいたま市東浦和でほんだカウンセリングオフィスを営む、心の専門家である臨床心理士・公認心理師の筆者が、子供の得意な面と苦手な面がわかる知能検査として、WISC(ウェクスラー式の児童用の知能検査)をご紹介いたしました。
WISC検査を受けるというのが一般的になりつつあり、よかったと聞いたからと気軽に受けたいという声を聴くことがよくあります。しかし、実施で子どもへの負担があったり、結果から偏見が生まれる場合も少なくありません。
その辺りは、必要性も十分に見極めてから、専門家と相談の上で、子ども自身に結果役立ちそうな場合、その子がよりよく生きていけるように考えられる場合などで、実施していくというのがベストでしょう。
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